【事実】
Xらの所有する土地が電力会社(Y)の変電所建設予定地となり、起業者として事業認定を得たYは、本件土地の取得につきX らと協議したが不調に終わり、和歌山県収用委員会による収用裁決がされた。Xらは、この収用裁決を不服とし、Yを相手に、適正な補償等を求めて提訴。1審・2審ともXらの請求を棄却したため、Xらが上告。上告棄却。
【判旨】
「憲法29条3項にいう『正当な補償』とは、その当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常に上記の価格と完全に一致することを要するものではない・・・。」
「土地の収用に伴う補償は、収用によって土地所有者等が受ける損失に対してされるものである(土地収用法68条)ところ、収用されることが最終的に決定されるのは権利取得裁決によるのであり、その時に補償金の額が具体的に決定される(同法48条1項)のであるから、補償金の額は、同裁決の時を基準にして算定されるべきである。その具体的方法として、同法71条は、事業の認定の告示の時における相当な価格を近傍類地の取引価格等を考慮して算定した上で、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて、権利取得裁決の時における補償金の額を決定することとしている。」
「事業認定の告示の時から権利取得裁決の時までには、近傍類地の取引価格に変動が生ずることがあり、その変動率は必ずしも上記の修正率と一致するとはいえない。しかしながら、上記の近傍類地の取引価格の変動は、一般的に当該事業による影響を受けたものであると考えられるところ、事業により近傍類地に付加されることとなった価値と同等の価値を収用地の所有者等が当然に享受し得る理由はないし、事業の影響により生ずる収用地そのものの価値の変動は、起業者に帰属し、又は起業者が負担すべきものである。また、土地が収用されることが最終的に決定されるのは権利取得裁決によるのであるが、事業認定が告示されることにより、当該土地については、任意買収に応じない限り、起業者の申立てにより権利取得裁決がされて収用されることが確定するのであり、その後は、これが一般の取引の対象となることはないから、その取引価格が一般の土地と同様に変動するものとはいえない。そして、任意買収においては、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業認定の告示の時における相当な価格を基準として契約が締結されることが予定されている・・・。」「なお、土地収用法は、事業認定の告示があった後は、権利取得裁決がされる前であっても、土地所有者等が起業者に対し補償金の支払を請求することができ、請求を受けた起業者は原則として2月以内に補償金の見積額を支払わなければならないものとしている・・・から、この制度を利用することにより、所有者が近傍において被収用地と見合う代替地を取得することは可能である。」
「これらのことにかんがみれば、土地収用法71条が補償金の額について前記のように規定したことには、十分な合理性があり、これにより、被収用者は、収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償を受けられる・・・。」
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